「山の気を飲む。」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.73 巻頭コラム

「山の気を飲む。」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.73 巻頭コラム

TOKYO TEA JOURNALの巻頭コラムをご紹介。お茶のこと、うつわのこと、お茶菓子のこと。
私たちが企画した商品やよいと思った品に、向き合って、改めて見つめてみて思ったことや考えたことをお伝えします。

山の気を飲む。

新しい季節の気配とともに、今年も新茶がやってくる。風がやわらかくなり、光が少しずつ透明度を増す頃、新茶の香りは、春が確かに通り過ぎた証のように届く。

今年の新茶には、『喫茶養生記』(栄西)、『清風瑣言(さげん)』(上田秋成)、『本朝食鑑』(人見必大)などの書に光を当て、茶の本質に迫る言葉をしたためた。

「茶、野生にして、其の種生(お)ふる所、皆嶺巓(れいてん)に在り。故に山川の英気を含み、清風を養ふ。」

茶は野に自生し、その多くが高い山の峰に生える。だからこそ、山と川の精気を取り込み、清風をその身に宿すというわけだ。自然とともにあるお茶の姿が、この言葉の中に凝縮されている。お茶を、自然や季節と私たちを結びつける媒介とする考えは、今もなお色褪せない価値を放っている。

なかでも新茶は、その年のはじまりにふさわしい、みずみずしいエネルギーをたたえている。八十八夜を過ぎる頃には陽の気が満ち、香りは深まり、旨みも増していく。茶葉に含まれる揮発性の成分や繊細な香気は、まさにこの時期だけのものだ。

朝の静かな時間、湯を沸かし、そっと茶を淹れる。立ちのぼる湯気に包まれながら目を閉じると、日々の喧騒がすっと遠のくように感じられる。それは、時間を整えるというよりも、心の風通しをよくする感覚に近い。近代の科学では捉えきれない香りや余韻、そこに重ねられた文化の層に、私たちは確かに惹かれている。

自然の声に耳を澄ませるように、新茶をいただく時間──それは、季節の移ろいに静かに身をゆだねる、贅沢なひとときである。

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