「夏のよろこび」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.76 巻頭コラム

「夏のよろこび」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.76 巻頭コラム

TOKYO TEA JOURNALの巻頭コラムをご紹介。お茶のこと、うつわのこと、お茶菓子のこと。
私たちが企画した商品やよいと思った品に、向き合って、改めて見つめてみて思ったことや考えたことをお伝えします。

夏のよろこび

やわらかな陽の光が差し込む朝。手に取るのは、涼やかなガラスの器だ。周囲の光を取り入れて境界を曖昧にしているそれに目覚めの一杯を注げば、水面はまぶしく反射してきらめき、眼の奥がじんわりと刺激され、体はすうっと覚醒してゆく。

朝の光は特別に綺麗だから、光を通すガラスは容器としての役割をはるかに超えて、ただの飲み物を特別な一杯に変えてくれる。

日が高くなる頃には、ガラスは強い日差しを攪乱し、天井にゆらゆらと光の模様を映し出す。

冷たい飲み物を満たせば、結露した表面から指先へ涼しさが伝わって、暑さを一瞬忘れさせる。うだるような夏の昼下がりも、ガラスの器を眺めて過ごすなら、特別なひとときに感じられる。

夕暮れ時。傾き始めた太陽の光はガラスを通り、地平線を染める空の色と重なって、暖色の世界を作り出す。汗をかいたグラスを手にして覗く景色は、忙しない一日の終わりをセンチメンタルに演出し、ゆっくりとした呼吸のテンポを思い出させる。

部屋の暗がりに溶け込んでゆくガラスは、ともすれば見逃してしまうかもしれないが、縁のラインが一閃と浮かび上がって、鋭い美しさを醸し出す。

夜更け、一日の疲れを癒すための一杯は、やはりガラスがよい。氷の音を響かせ、唇に触れる薄いガラスの凛とした感触、喉から胃へ体内を冷やしながらを通っていく感覚が気持ちいい。

夏の一日を通して、ガラスはそれぞれの時間に光と冷涼さをまとい、ありふれた瞬間を豊かに変えてくれる。

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