「焙煎香が呼び覚ますもの」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.77 巻頭コラム

「焙煎香が呼び覚ますもの」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.77 巻頭コラム

TOKYO TEA JOURNALの巻頭コラムをご紹介。お茶のこと、うつわのこと、お茶菓子のこと。
私たちが企画した商品やよいと思った品に、向き合って、改めて見つめてみて思ったことや考えたことをお伝えします。

焙煎香が呼び覚ますもの

デパ地下や街のお茶屋さんから漂ってくる、あの香ばしい匂い。思わず足を止めてしまうほど人を惹きつける香りこそ、ほうじ茶の焙煎香だ。子どもの頃から馴染んできたその記憶が、私たちがほうじ茶パウダーを使うきっかけになった。

東京茶寮を立ち上げた当初から、すでにお菓子にほうじ茶パウダーを取り入れていた。覚えている方もいるかもしれないが、最初にお茶菓子として登場したのは「ほうじ茶のブラマンジェ」だ。

シングルオリジン煎茶を軸に据えた店のコンセプトの中で、抹茶スイーツが主流の時代にあえてほうじ茶を選んだのには理由がある。焙煎香がもたらす「ひとくちで美味しい」と感じられるわかりやすさに強く惹かれていたからだ。甘さを引き立て、ミルクとも調和し、誰もが頷くような深い香ばしさを演出してくれる。

ただ、香りを強調するだけでは十分ではない。素材や粉末の仕立て方ひとつで、印象は大きく変わる。現在販売しているほうじ茶パウダーも、基本は変わらず、私たちが長年信頼してきたものだ。シンプルだからこそ奥深い。

ただ、数年前に同じように販売しても、今ほどの人気は得られなかっただろう。その背景には抹茶ラテの存在がある。海外人気はもちろん、新茶の季節になると大手チェーンやコンビニで並ぶ抹茶スイーツは年々バリエーションが豊かになってきた。そうした流れがあったからこそ、ほうじ茶スイーツの人気も高まったのだと思う。

ひと匙を溶かすと、立ちのぼる香りは懐かしくも新しい。日常にふと安らぎをもたらし、日本人が長く愛してきた「香りの記憶」を現代に繋ぐ。これからもその魅力を絶やすことなく、次の世代へと手渡していきたい。

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