「金木犀、 静かに満ちて」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.80 巻頭コラム

「金木犀、 静かに満ちて」- TOKYO TEA JOURNAL VOL.80 巻頭コラム

TOKYO TEA JOURNALの巻頭コラムをご紹介。お茶のこと、うつわのこと、お茶菓子のこと。
私たちが企画した商品やよいと思った品に、向き合って、改めて見つめてみて思ったことや考えたことをお伝えします。

金木犀、 静かに満ちて

今年の金木犀のお茶には、いつもとは少し違う静けさがあるように感じた。湯を注いだ瞬間にふわりと立ち上がる香りは確かに金木犀そのものなのだが、その奥に、やわらかい温度のような気配が宿っている。どこか控えめで、落ち着いた佇まいだ。

金木犀は、江戸時代に中国南部から伝わったとされるが、正確な年代は分かっていない。香木として珍重され、庭木として親しまれるようになり、当時から街路樹として広まったという記録も残る。興味深いのは、日本で見られる金木犀の木はどれも雄株で、同じ木から挿し木で増えてきたとされる点だ。

あちこちで出会うどの金木犀も同じ遺伝子を持つからこそ、日本に暮らす人々はあの香りをどこか共通の記憶として抱いているのかもしれない。

花そのものは可憐で、指先で触れれば壊れてしまいそうなほど小さい。だが、控えめな姿からは想像できないほど香りは強く、風の向きによって突然こちらへ届く。桜が視覚で季節を知らせる花だとすれば、金木犀は「香りの気配」で秋を告げる花なのだと思う。かつて茶庭にも植えられていたという話を聞くと、この香りが、お茶の文化とともに静かに人々の暮らしに寄り添ってきたことが伝わってくる。

今回の金木犀のお茶には、そうした香りの背景にそっと調和するように、控えめな味わいの茶葉が選ばれている。花の華やかさだけが際立つのではなく、湯を注いだときにふわりと香りが立ち上がり、すっと消えていく。その余韻を楽しんでもらえるよう、最後の仕上げまで丁寧に整えた。

どうか一杯分のお湯をゆっくり注ぎながら、金木犀が古くから届けてきた季節の気配を思い浮かべていただけたら嬉しい。

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